テキサスホールデムにおけるプリフロップ戦略

確率論

※ChatGPT画伯作、”A dramatic poker game scene in a dimly lit casino with a player confidently going all-in in Texas Hold’em.”

プリフロップにおけるベット額

 前回の投稿で初心者が多いテーブルでタイトアグレッシブのプレイヤーが思った以上に弱く感じると書いたが、原因がわかった気がしたので簡単に説明しようというのが本稿の趣旨である。プリフロップにおけるベット戦略はすべてのポーカーの本で解説されているし、手札の組み合わせもそれほど多いものではないので定石通りプレイするのが良いのだろう。初心者でも本を一冊読めば簡単に真似して実践できる内容だろうと思われる。

 プレイヤーが持っているチップが100bb程度のゲームでは、プリフロップにおけるベット額は大体において以下に分類される。

  1. コールレンジ(1~4bb)
  2. 3ベットレンジ(7~12bb)
  3. 4ベットレンジ(20~30bb)
  4. 5ベットレンジ(40~All-in)

手札に応じて、Foldする、コールレンジではコールする(レイズする)、3ベットレンジでもコールする(レイズする)などそれぞれの選択肢を選ぶ確率がナッシュ均衡戦略に基づいて求められているようである。4ベット以上はおそらく複数のプレイヤーが強い手札を引いたときに、アグレッサーになるためにベットを吊り上げった結果でなる場合が多いのではないだろうか。また、テキサスホールデムではオープニングレイズの倍率は2~4倍が選ばれる。いきなり3ベットレンジまでレイズしてしまうと手札の強さを示してしまうことになるし、他のプレイヤーがすべてFoldした場合、勝利してもほとんどチップを獲得できないからである。

 推測であるが、慣れたプレイヤー同士でプレイする場合は多くのゲームでベット額は3ベットレンジが選ばれるのではないだろうか。前半で一人のプレイヤーがレイズして、後半でもう一人がリレイズするベット額である。中途半端な手札で入るにはベット額が高すぎるため、9割ぐらいの手札でFoldするぐらいの賭け金に相当する。しかし、初心者同士だとほとんどのゲームでレイズするプレイヤーはいないか、もしくは、一人しかおらず、コールレンジのベット額でプリフロップが終わる。まれに3ベットレンジまでレイズするプレイヤーがいるが、非常に強い手札を持っていることがほとんどである。加えて、3ベットレンジまでレイズするプレイヤーがいると、多くの初心者プレイヤーはFoldしてしまう傾向があるように思う。わざわざ強い手札を持っている相手と戦う必要はないということだろう。結果として、折角の強い手札で入手できるチップがわずかばかりという事象が頻繁に発生する。初心者が多いゲームでは3ベットレンジまでレイズすることのメリットがあまり無いように感じるのである。

 もう一つは、筆者がやっているゲームがお金をかけるものではないせいかもしれないが、ポットにチップが貯まったタイミングを見計らってオールインしてくるプレイヤーが少なからずいる。全部のチップを賭けるつもりでベットを上げていたわけではないので、強い手札を持っていてもFoldせざるを得ないということが結構頻繁に発生する。そのため、プリフロップの段階でベットを吊り上げるという操作に結構なリスクが付きまとっているようにも見える。多くのプレイヤーがリンプインしてプリフロップを通過しようとするのはこのことに原因があるのかもしれない。

 結果として、初心者同士だと6人でプレイしていても、多くのゲームでフロップまで残っているプレイヤーが4~6人いる。本来であればフロップに残るのは2,3人であり、このラウンドから心理戦や駆け引きといった要素が多く現れることになるのだろうが、6人も残っていると心理戦とか駆け引きという状況ではなくなってしまうのかもしれない。加えて、確率を計算していて気づいたことであるが、プリフロップ終了時点で残っている人数の違いによって、手札の価値が微妙に変わっており、これがタイトアグレッシブのプレイヤーが弱く見える原因になっていると筆者は考えた。具体的な手札の勝利確率を示すと次の通りである。

残っている人数ごとの勝利確率

 通常では、プリフロップの段階で2,3人ぐらいに参加人数が絞られているため、プリフロップで配られる2枚の手札の価値は状況によってあまり変わらないと思うかもしれない。また、参加してくるプレイヤーの手札も一定以上に強い手札で参加してくるだろう。例えば、27oとか63oなどといった手札でフロップに参加してくるプレイヤーはほとんどいないと推測される。

 しかし、初心者同士だとプリフロップからフロップへ進むための参入コストが低いために、かなり広いレンジの手札でフロップまで参加してくるプレイヤーが多い。このプリフロップからフロップへ移行する段階で手札の価値は大きく変わることが多いため、フロップでプレミアハンド(AA,KK,AKsなど)と言われる手札がほとんど価値がなくなることもあるし、27oや63oという手札も公開カードによっては最強の手札の一角に変わることもある。そのため、プリフロップにおけるベットによるふるい落としの効果を無視して勝利確率を計算しても、手札の価値の評価としては一定の妥当性を認めることができるだろう。この勝利確率はモンテカルロシミュレーションで計算できる。評価軸として、参加人数が\(\small n\)人の場合、勝利確率\(\small p\)が

\[ \small p > \frac{1}{n}\]

であれば、フロップに参入することに正当性が与えられる手札ということになるだろう。これをプレイヤーの人数\(\small n\)毎に計算した結果は次の通りであった。多くのポーカーの本同様に、表の右上部がSuited(“s”)であり、左下がOff-suited(“o”)である。

\(\small [n=2] \)

\(\small [n=3] \)

\(\small [n=4] \)

\(\small [n=5] \)

\(\small [n=6] \)

初心者が多いゲームでタイトアグレッシブが弱いように感じる理由

 計算した表をよく目を凝らしてみてみると以下の傾向があることが分かるだろう。

  1. 参加人数が増えるほど、ランクのペアで役を完成させる手札(Off-suited、Pocket Pair)の勝率が相対的に低下している。
  2. 参加人数が増えるほど、フラッシュが完成しやすい手札(Suited)の勝率が相対的に高くなっている。

一見些細に見えるかもしれないが、初心者が多いゲームでタイトアグレッシブのプレイヤーが弱い原因はこれにあると推測する。タイトアグレッシブのプレイヤーはランクが高いカードのペア(ワンペアやツーペア)を完成させて、積極的にベットを吊り上げることで他のプレイヤーをふるい落として勝利を得るというのが基本形である。言い換えれば、ワンペアやツーペアの価値が他の役に比べて高いほど強みを発揮するスタイルであると言える。参加人数が絞られているほどそういう状況を作ることができるため、プリフロップからベットを吊り上げて参加人数を絞る場合に適したプレイスタイルであると言える。

 一方で、初心者が多いゲームではフロップ時点における参加人数が多い傾向があるため、ワンペアやツーペアの価値が相対的に低下しており、反対にフラッシュやストレートが狙える手札の価値が高くなっている。結果として、高いランクのワンペアやツーペアを作ってベットを吊り上げる戦略は、フラッシュやストレートを完成させたプレイヤーに刺されるという現象が生じやすくなる。フロップ時点でプレイヤーの数が絞られていれば、フラッシュやストレートを完成する可能性がある手札のプレイヤーは振り落とされている可能性が高いのであるが、フロップ時点における参加人数が多いとフラッシュやストレートを狙うプレイヤーが残っている可能性が高くなってしまうということである。

 フロップの段階でプレイヤーが6人も残っていると、例えばフロップでAのワンペア(1枚はプレイヤーの手札)が完成したとしても、慣れたプレイヤー同士でプレイする場合と比べて勝利できる確率が相当に低下しており、この状況でアグレッシブにベットを吊り上げていくという行動が必ずしも合理的な選択ではないということになってしまうのだろう。こういったことが初心者が多いゲームでタイトアグレッシブのプレイヤーが弱く見える原因になっているというのが筆者が考えた仮説である。

プリフロップでどの範囲の手札で参加すればよいか

 ポーカーの本の説明通りにすればよいだろうという話だけど、一応タイトルにつけてしまったので記述しておく。プリフロップ終了時点で参加人数をどれくらいに絞るかに応じて、勝利確率が一定の閾値より高い手札で参入すれば、それほど大きく間違えることはないだろう。例えば、タイトアグレッシブのプレイヤーがほとんどであり、大抵の場合2人に絞り込まれると考えるのであれば、プレイヤーが二人の場合の勝利確率を基準に範囲を定めれば良いと思う。

 一般にテキサスホールデムでは、行動を決定する順番が早いポジションほど不利であるため、参入する勝利確率の閾値を高めに設定するとよいだろう。6人でプレイする場合は、UTG,MP,CO,BN,SB,BB(記号の代わりに1,2,3,4,5,6としてもよいと思う)の順で意思決定を行うが、この閾値を例えば

  1. UTG: 60%
  2. MP: 58%
  3. CO: 56%
  4. BN: 54%
  5. SB: 52% × (bet – 0.5bb) / (bet)
  6. BB: 50% × (bet – 1bb) / (bet)

のように定めれば良いだろう。SBとBBはすでにブラインド分を出しているため、その分だけ閾値をディスカウントする必要があることに注意する。betが1bbのままBBまで回ってきた場合は必ずチェックかレイズすることになる。SB以外のプレイヤーはエントリーする場合、必ずレイズから入れと言われるのは、SB、BBが意味不明な手札で入ってくることを防ぐという意味合いもあるようである。この場合における具体的な参入の範囲を示せば以下の通りである。SB,BBはbetが9bbの場合について計算している。

1. UTG(Under the Gun)

2. MP(Middle Position)

3. CO (Cut Off)

4. BN (Dealer Button)

5. SB

6.BB

3ベットレンジで回ってきた場合(UTGやMPは2周目以降)は、この閾値を高めに設定して手札を絞ればよいだろう。UTGの表の範囲かもう少し絞った範囲(勝率が62~64%以上)にすればよいかもしれない。SBやBBは1周目で3ベットレンジでなければ、ほとんどの場合コールレンジで終わるため、広い手札で参入できる。まれに1周目でリンプインしておきながら、オープンレイズに対してリレイズしてくる奴がいて嫌な気分になることもある(機嫌が悪い人がいるとレイズ合戦になってプリフロップでオールインになる)が、それほど多く発生する事象ではないだろう。

 初心者が多くほとんどのゲームにおいてプリフロップがコールレンジで終わる場合は、参入の閾値を下げてよいし、勝利確率のテーブルも5人ぐらいの値を使った方が良いだろう。例えば、5人の勝利確率のテーブルで閾値を

  1. UTG: 24.0%
  2. MP: 23.2%
  3. CO: 22.4%
  4. BN: 21.6%
  5. SB: 20.8% × (bet – 0.5bb) / (bet)
  6. BB: 20.0% × (bet – 1bb) / (bet)

のように定める。この場合における具体的な参入の範囲を示せば以下の通りである。SB,BBはbetが3bbの場合について計算している。

1. UTG

2. MP

3. CO

4. BN

5. SB

6. BB

これらは一例に過ぎないし、もっとタイトに設定することもルースに設定することも可能である。筆者がプレイした感覚ではタイトだから強いとかルースだから弱いということは特に感じることはなかった(強いプレイヤー同士の場合は知らんけど)。初心者が多いゲームではそもそも教科書通りの戦略を用いることが不可能(3ベットレンジがほぼ存在していない)に見えるため、自分のスタイルに合った戦略や対戦相手の性質に合わせて使う戦略を決めておくとよいだろう。もちろん、勝率が高い手札の参入率やベット額が高くなるように決定する必要はあるけれど。