ギャンブルにおけるKelly基準の拡張:CRRA型効用関数

確率論

概要

 Kelly基準と言われるギャンブルにおける賭け金の決定方法について導出方法を示した。

これは対数型の効用関数を最大化するように賭けのポートフォリオを定める方法であり、数学や経済学の問題としては特殊な例に相当する。本稿では、Kelly基準をもう少し一般的な効用関数(CRRA型効用関数)にまで拡張して、ギャンブラーのリスク回避度に応じた賭けのポートフォリオをどう定めれば良いかについて説明する。

期待効用関数

 ギャンブルや投資など不確実性がある意思決定を行った結果として実現する富や収益に対して、個人がどの程度好ましいと考えるかの尺度(経済学の用語で効用(Utility)という)が関数\(\small u(W)\)で表すことができると仮定する。この関数を効用関数と言い、不確実性について期待値を計算した関数

\[ \small U(W) = E[u(W)] \]

を期待効用関数という。ギャンブルを行った後の富\(\small W\)と、ギャンブルをせず現金のまま保有した場合の富\(\small C\)で

\[ \small u(C)=E[u(W)] \]

が成り立つとき、\(\small C\)は確実性等価(Certainty Equivalent)という。リスク回避的な個人であれば、確実性等価はギャンブルを行った後の富\(\small W\)の期待値\(\small E[W]\)より小さくなるはずであり

\[ \small u(C) = E[u(W)] < u(E[W]) \]

が成り立つだろう。この式が等号で成り立てばリスク中立的、反対に\(\small E[u(W)] > u(E[W])\)であればリスク愛好的ということになる。

 このように考えると富に関する効用関数の形状は、その個人のリスクに対する選好を表現しているものと考えることもできる。リスク回避的な効用関数の条件を成り立たせる効用関数は凹関数であり、\(\small u”(W)<0\)となる。効用関数の富に関する2階微分の値が小さいほどリスク回避的な効用関数であると言えるだろう。このリスク回避の程度を測る尺度として以下の2つが存在する。

\[ \begin{align*} &\small A(W) = -\frac{u”(W)}{u'(W)} \\ &\small R(W) = -\frac{u”(W)}{u'(W)}W \end{align*} \]

\(\small A(W)\)を絶対的リスク回避度(Absolute Risk Aversion)、\(\small R(W)\)を相対的リスク回避度(Relative Risk Aversion)という。効用関数は絶対的な値には必ずしも意味がないため、富の増加に対する効用の上昇率で基準化して評価されている。絶対的リスク回避度は富の大きさにかかわらず、リスクの金額の程度が同じであるリスク回避度である。例えば、富が100万円でも1億円でも、10万円得るか失うかのリスクを同じように評価するということを意味する。相対的リスク回避度は富の水準に対する比率でリスクを評価する方法であり、Kelly基準はこちらの方法でリスク回避を考えていることは想像できるだろう。一般的には相対的リスク回避度の方が人間の感覚に当てはまりやすいため、多くの場合こちらのリスク回避度を用いる。

 富の水準にかかわらず相対的リスク回避度が一定である効用関数をCRRA(Constant Relative Risk Aversion)型効用関数という。

\[ \small R(W) = -\frac{u”(W)}{u'(W)}W = \gamma = \text{const.} \]

である。具体的な効用関数の形状は微分方程式

\[ \small u”(W) = -\frac{\gamma}{W}u'(W) \]

を解くことで求めることができる。これはオイラー-コーシーの微分方程式といわれ、解がべき関数や対数関数で与えられることが知られているらしい。実際にCRRA型効用関数として

\[ \small u(W) = \left\{ \begin{array}{ll}\frac{W^{1-\gamma}-1}{1-\gamma},& \quad \gamma \neq 1 \\ \log(W), & \quad \gamma=1 \end{array}\right. \]

が用いられることが多い。\(\small \gamma=0\)の場合、\(\small u(W)=W-1\)であり、これはリスク中立的な効用関数であるということになるだろう。また、\(\small \gamma=1\)の場合は対数型の効用関数であり、Kelly基準に相当する。実際に微分を計算すれば、相対的リスク回避度が一定であるという仮定を満たすことが確認できるだろう。この効用関数の仮定の下で、Kelly基準同様に最適な賭け戦略(Optimal Betting Strategy)を求めよう。

CRRA型効用関数に関する最適な賭け戦略

 一般的なKellyの公式同様に、胴元の手数料(House Edge)がある場合を考察しよう。すなわち、\(\small n\)個の選択肢のうち、1つが当選するものとし、各選択肢に賭けられた賭け金を\(\small A_1,\cdots,A_n\)と表すとき、各選択肢のオッズは

\[ \small \alpha_i = \frac{(1-\theta)\sum_{i=1}^n A_i}{A_i} \]

で与えられるものとする。ここで、\(\small \theta\)は胴元の取り分比率である。このとき、オッズから逆算した当選確率の合計は1にならず、

\[ \small \sum_{i=1}^n q_i = \sum_{i=1}^n \frac{1}{\alpha_i} = \frac{1}{1-\theta} > 1 \]

となることに注意する。いまギャンブラーが推定した当選確率を\(\small p_1,\cdots,p_n\)と表し、手元に残す資金の比率を\(\small b\)と表す。このとき、CRRA型効用関数を最大化するギャンブラーの最適化問題は

\[ \begin{align*} \small \max_{b, f_1, \cdots, f_n} \; & \small E[u(W)] = \sum_{i=1}^n p_i u \left(b+f_i \alpha_i \right) \\ \small \text{s.t.} \; & \small b + \sum_{i=1}^n f_i = 1, \; b \geq 0, \; f_i \geq 0 \; \forall i \end{align*} \]

と表すことができる。ここで

\[ \small u(W) = \left\{ \begin{array}{ll}\frac{W^{1-\gamma}-1}{1-\gamma},& \quad \gamma \neq 1 \\ \log(W), & \quad \gamma=1 \end{array}\right. \]

である。

 Kelly基準と同じ要領で上記の最適化問題の解を求めよう。スラック変数\(\small k,\lambda_1,\cdots,\lambda_n\)を導入して、Lagrangianを

\[ \small L(b, f_1,\cdots, f_n, k, \lambda_1,\cdots,\lambda_n) = \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \\ \small \qquad \qquad \sum_{i=1}^n p_i u \left(b+ f_i \alpha_i \right) + k \left( 1-b- \sum_{i=1}^n f_i \right) + \sum_{i=1}^n \lambda_i f_i \]

と定義し、Karush-Kuhn-Tucker(KKT)条件を求めれば、

\[ \begin{align} & \small \frac{\partial L}{\partial f_i} = \frac{p_i \alpha_i}{(b+f_i \alpha_i)^\gamma}-k + \lambda_i = 0, \quad \forall \; i \\ & \small \frac{\partial L}{\partial b} = \sum_{i=1}^n \frac{p_i}{(b+f_i \alpha_i)^\gamma} – k = 0\\ & \small \frac{\partial L}{\partial k} = 1 -b -\sum_{i=1}^n f_i = 0 \\ & \small \lambda_if_i = 0, \quad \forall \; i \end{align} \]

となる。ここで、\(\small f_i > 0\)の場合\(\small \lambda_i = 0\)、\(\small f_i = 0\)の場合 \(\small \lambda_i > 0\)でなければならないことに注意する。KKT条件の第1式を整理すると

\[ \small f_i = \max\left\{\frac{p_i^{\frac{1}{\gamma}} q_i^{\frac{\gamma-1}{\gamma}}}{k^{\frac{1}{\gamma}}}-bq_i, 0 \right\} \]

が成り立つ。KKT条件の第2式を\(\small f_i>0\)の項と\(\small f_i=0\)の項を分けて表すと

\[ \small \sum_{f_i>0}\frac{p_i}{(b+f_i \alpha_i)^\gamma}+\frac{1}{b^\gamma}\sum_{f_i=0} p_i = k \]

したがって、

\[ \small \sum_{f_i>0}\frac{p_i}{(b+f_i \alpha_i)^\gamma}+\frac{1}{b^\gamma}\left(1-\sum_{f_i>0} p_i\right) = k \]

を得る。KKT条件の第1式を\(\small f_i>0\)について和を取れば

\[ \small \sum_{f_i>0}\frac{p_i}{(b+f_i \alpha_i)^\gamma} = k\sum_{f_i>0}\frac{1}{\alpha_i} \]

であるから、置き換えて式を整理すると

\[ \small b = \frac{1}{k^{\frac{1}{\gamma}}}\left(\frac{1-\sum_{f_i>0} p_i}{1-\sum_{f_i > 0} q_i}\right)^\frac{1}{\gamma} \]

を得る。

 \(\small f_i>0\)である\(\small f_i\)について和をとると

\[ \small \sum_{f_i>0}f_i = 1-b = \sum_{f_i>0}\frac{p_i^{\frac{1}{\gamma}} q_i^{\frac{\gamma-1}{\gamma}}}{k^{\frac{1}{\gamma}}}-b\sum_{f_i>0}q_i \]

を得る。\(\small b\)の式を代入して、\(\small k\)について整理すると

\[ \small k^{\frac{1}{\gamma}}=\sum_{f_i > 0}p_i^{\frac{1}{\gamma}} q_i^{\frac{\gamma-1}{\gamma}}+\left(\frac{1-\sum_{f_i>0} p_i}{1-\sum_{f_i > 0} q_i}\right)^\frac{1}{\gamma}\left(1-\sum_{f_i > 0} q_i\right) \]

を得ることができる。したがって、手元に残す資金の比率\(\small b\)は

\[ \small b = \frac{\left(\frac{1-\sum_{f_i>0} p_i}{1-\sum_{f_i > 0} q_i}\right)^\frac{1}{\gamma}}{\sum_{f_i > 0}p_i^{\frac{1}{\gamma}} q_i^{\frac{\gamma-1}{\gamma}}+\left(\frac{1-\sum_{f_i>0} p_i}{1-\sum_{f_i > 0} q_i}\right)^\frac{1}{\gamma}\left(1-\sum_{f_i > 0} q_i\right)}\]

と計算できる。一般性を失うことなく、ギャンブラーにとって有利な選択肢に添え字を並び替えるものとする。すなわち、\(\small p_1 /q_1 > p_2 /q_2 > \cdots > p_n / q_n\)を仮定する。このときのギャンブラーにとっての最適な賭け金比率は

\[ \small t^{\ast} = \arg \min_t \frac{\left(\frac{1-\sum_{i=1}^t p_i}{1-\sum_{i=1}^t q_i}\right)^\frac{1}{\gamma}}{\sum_{i=1}^tp_i^{\frac{1}{\gamma}} q_i^{\frac{\gamma-1}{\gamma}}+\left(\frac{1-\sum_{i=1}^t p_i}{1-\sum_{i=1}^t q_i}\right)^\frac{1}{\gamma}\left(1-\sum_{i=1}^t q_i\right)} \quad \text{s.t.} \;\; \sum_{i=1}^t q_i < 1 \]

を満たす\(\small t^{\ast}\)を計算して(ここで、\(\small \arg \min_t f(t)\)は\(\small f(t)\)を最小にする\(\small t\)の値を表す)

\[ \begin{align*} & \small f_i = \max\left\{\frac{p_i^{\frac{1}{\gamma}} q_i^{\frac{\gamma-1}{\gamma}}}{k^{\frac{1}{\gamma}}}-bq_i, 0 \right\} \\ & \small b=\frac{1}{k^\frac{1}{\gamma}}\left(\frac{1-\sum_{i=1}^{t^\ast} p_i}{1-\sum_{i=1}^{t^\ast} q_i}\right)^\frac{1}{\gamma} \\ & \small k^{\frac{1}{\gamma}}=\sum_{i=1}^{t^\ast} p_i^{\frac{1}{\gamma}} q_i^{\frac{\gamma-1}{\gamma}}+\left(\frac{1-\sum_{i=1}^{t^\ast} p_i}{1-\sum_{i=1}^{t^\ast} q_i}\right)^\frac{1}{\gamma}\left(1-\sum_{i=1}^{t^\ast} q_i\right) \end{align*} \]

と計算できる。以上がCRRA型効用関数を持つギャンブラーの最適賭け戦略である。\(\small \gamma = 1\)のとき、\(\small k=1\)になり、Kellyの公式と一致することは確認できるだろう。

 一般に、Kelly基準は賭け金比率が高く、多くのギャンブラーにとって資金の変動が苦痛に感じられると言われるが、こちらの公式を用いれば、自分のリスク選好度に応じて\(\small \gamma\)を定めることで適切なレバレッジを選ぶことができるだろう。経済学では、相対的リスク回避度\(\small \gamma\)の値は2~5ぐらいの値であると言われているので、Kelly基準は平均的な人に比べるとリスク愛好的な基準になっているように見えるかもしれない。また、重要なのは各選択肢が実現する確率\(\small p_i \)の推定であるが、これはそのうちまとめて考察しようと思う。

参考文献

[1] Ethier, Stewart N. The Doctrine of Chances: Probabilistic Aspects of Gambling. Springer-Verlag, 2010.

[2] Huang, Chi-Fu and Robert H. Litzenberger, Foundations for Financial Economics, North Holland, 1988.

[3] Kelly, John L. A New Interpretation of Information Rate. Bell System Technical Journal, 1956.

[4] 池田昌幸, 金融経済学の基礎, 朝倉書店, 2000.