概要
現在筆者はポーカーのゲームを個人で開発しているが、よく言われるポーカーアプリで確率操作ができるかということについて議論してみようと思う。結論だけ書けば、それはもちろんできるし、それほど難しいことでもない(バレないようにやるのは難しいかもしれないけど)。結局のところ、確率操作をするモチベーションがアプリの提供者サイドにあるかどうかという問題に帰着されるのだろう。
オンラインポーカー(日本では違法だけど)であれば、プレイヤーに大きな賭けをしたくなるようなカードを配る確率を増やすことにモチベーションがあるかもしれない。ソーシャルゲームでは重課金勢を優遇したいであるとか、負けが多いプレイヤーが離脱しないように救済したいなどという誘惑があるかもしれない。重課金プレイヤーが負けまくった結果として、嫌気がさして辞めるなどという状況は避けたいものだろう。これらの業者が実際にはやっていないにしても、常に確率操作の疑いを持たれるのは、モチベーションが無いとは言い切れない(むしろ、ある方が自然である)ということに原因があるのだろう。
プレイヤーサイドからすれば、練習をしたいとか強くなりたいと思ってプレイしているアプリが確率操作されているとしたら、誤ったゲームのルールでプレイすることになってしまうため、本来の目的を達成できないどころかむしろ逆効果になってしまう可能性がある。そのため、確率操作があるアプリでのプレイは極力避けたいと思うものだろう(まあ、重課金してるんだから接待しろと思うプレイヤーもいるかもしれないけど)。
今年の投稿は今回で終わりにしようと思うが、実をいうと今回がこのブログにおける100回目の投稿である。記念すべき投稿でイカサマについて議論してみようというのは筆者の個人的な性格によるものであるかもしれない。
配布されるカードの確率を操作する
テキサスホールデムでは、多くの手札で見た瞬間に即フォールドという確率が相当に高い。100bb戦ではVPIPと言われるゲームの参加率は大体20%程度が最適である言われているため、80%近い確率で即フォールドになる。運が悪いと30分から1時間(10~30ゲーム)ぐらいフォールドしかできないという場合もあるだろう。
慣れている人であれば、そういうものだよでいいんだろうけど、オンラインゲームみたいに比較的短時間でゲームをプレイしたい場合、待ち時間ばかりで退屈になってしまうかもしれない。これを回避する目的で、即フォールドな手札の組み合わせが配布される確率を低く操作するということを行うことができる。ポーカーでは即フォールドな手札が配布される確率が低くなっても、公平性が失われるわけではないため、気づきづらい確率操作であるかもしれない。
アルゴリズム自体はいくつか考えられるが、最も単純な方法は弱い手札になった場合、1回か2回カードを戻して引き直すという操作を入れることだろう(これでも弱い場合はそのまま配布する)。結果的に、最適な戦略でエントリーするような手札が配布される確率を上げることができる。もう一つの方法は、配られるカードの確率に傾斜をつける方法である。エントリーする手札はA~Tぐらいの範囲がほとんどであるため、プリフロップだけA~Tが引かれる確率を高めに設定することでエントリーする手札の配布確率を上げることができる。
この操作が行われているポーカーアプリで確実に生じる現象はVPIPが通常と比較して明らかに高くなる傾向があるということである。VPIPが高すぎるアプリで確率操作が疑われるのはこのような理由によるものだろう。通常の戦略通りプレイすると自然とVPIPが高くなってしまうし、思ったより勝率が上がらない(相手も強い手札を持っている確率が高くなる)ということになる。この操作が行われているアプリでは最適な戦略が通常の戦略よりタイトになるため、より強い手札だけで参戦するように戦略を調整した方が良いことになる。
プレイヤーの勝率を操作する
テキサスホールデムの特徴をもう一つ挙げると、ショーダウンまで行くゲームは思いのほか少ないということである。言い換えれば、実際にどのような手札が配られたかを見れる機会はそれほど多くはないという性質を持っている。上級者のゲームでは、ほとんどのゲームがプリフロップかフロップで決着してしまい、ショーダウンまで行くゲームは全体の5%にも満たないらしい。エムホールデムやポーカーチェイスではショーダウンまで行く確率が通常より高めであるように感じるが、それでも全体の10~15%程度であると推測される。
このような性質があるため、ショーダウン時の勝敗の確率がプレイヤーによって変わるように手札を配布しても、なかなか露見しづらいという傾向がある。ゲームの開始時点で、プレイヤーの手札と共通カードをあらかじめすべて決定するアルゴリズムで実装している場合、ゲーム開始時点で誰が勝者であるかプログラム上は分かっていることになる。そのため、決定された手札を誰に割り当てるかを操作すれば、ショーダウン時の勝率についてプレイヤーごとに格差をつけることができるだろう。
例えば、強いプレイヤーほどショーダウンで負けている手札が配布される確率を上げたり、負けが込んでいるプレイヤーは反対に勝っている手札を配布する確率を上げることで、勝敗の率を平均化することができる。一般的に、実力差がある場合は勝者は平均的に勝ち続けるし、敗者は平均的に負け続けるため、両極に分かれていく傾向があるはずであるが、一定の強弱はあるにしても、なぜか平均的なところにプレイヤーの多くがとどまり続けている、みたいなゲームではこのような操作が行われている可能性があるということになる。
ソーシャルゲームみたいにプレイ人口を可能な限り多くしておきたいアプリでは、勝者と敗者が両極に分かれていくというゲーム設計は都合が悪いものであるように思える。プレイヤーとして勝者しか残らない傾向が出てしまうためで、時間とともに脱落するプレイヤーを増やしてしまうことになる。これを避けるために、負けが込んでいるプレイヤーを救済するアルゴリズムを組み込むことで脱落者を減らす工夫などを取り入れている可能性は無きにしも非ずなのかもしれない。オンラインカジノなどでも、負けすぎたプレイヤーを逃さないようにたまには勝たせてやる(後で回収されるんだろうけど)という操作が行わていることは、しばしばネットなどで議論されている通りだろう。
ストラクチャード・デッキ
最後の例として、オンラインよりはライブポーカーで用いられる方法としてストラクチャード・デッキを挙げておく。ストラクチャード・デッキは賭け金をプレイヤーに大きくさせて、かつ、負けるようにカードの並び順を操作したデッキのことである。スリーカード以上の役同士が競争になるように仕向けられているデッキで、多くのプレイヤーが大きく賭け金を張りたくなる状況を恣意的に増やすことができる。
もちろん、これはプレイヤーに大きく賭けさせて、レーキを多くとりたいという操作であるが、闇カジノとかだと、プレイヤーの中にカジノ側のプレイヤー(プロップ・プレイヤー)が混じっていて、カモを見つけるとディーラーと結託して、カモに大きく賭けさせてチップを分捕るという操作が行われることもあるらしい。強い役でなぜか連敗するような場合はストラクチャード・デッキを疑った方が良いだろう。
オンラインのゲームにおいても、もちろんストラクチャードデッキを利用することは可能である。過去のプレイ履歴などを保存しておいて、賭け金が大きかったカードの組み合わせなどをランダムで混ぜ込むなどの手法を使えば、容易に賭け金を吊り上げやすいゲームにすることも可能だろう。
ポーカーアプリで公平性を担保する方法
筆者は多くのポーカーアプリはそんな操作はしていないと信じるけど、ここまで読んだ読者の中には絶望的な気持ちになってしまった人もいるかもしれない。結局、本当のところはどうなっているかわからないということで、完全に公平性を担保したゲームで練習したいみたいな人にとっては”どうすればいいんだよ”という気持ちになるかもしれない。
ポーカーアプリで公平性を担保する方法としては、以下の二つが妥当な方法ではないだろうか。
- ソースコードをオープンソースにして、誰でも仕様を確認できるようにした上で、ブロックチェーンみたいな分散システム(カードの配布を1台のマシンで行わない)にすることで不正なロジックの実行をできないようにする。
- サービス提供者に確率操作を行うインセンティブがないことを担保する(ギャンブルやソーシャルゲームなどのビジネスにしない。サービス提供者があくまで”趣味”としてサービスを提供する)。
いずれの方法も現実的ではないのだけれど、筆者が開発しているアプリの方針としては2.のアプローチを採用しようと思っている。趣味であるために、ゲームをプレイして勝っても負けても得るものも失うものも何も無い(賞品や報酬を支払うことがない)というゲームになるため、集客が難しいという側面があるが、ユーザの少なさをAIで補ってみようというのが筆者が現在開発しているアプリのアイデアになっている。この記事の執筆時点ではまだリリースされていないが、2026年2月頃にリリースする予定であるので、以下にゲームの紹介ページのリンクを貼っておく(まあ、自分のゲームの宣伝がしたかっただけだけど・・・)。
ただし、このアプローチも本当のところは問題がある。マネープレッシャーがないために気楽にプレイできてしまい、VPIPが高くなったり、無謀なベットを連発してしまうみたいな操作を回避できないだろう。こう考えると、やはり運営者側の信用というものが最も重要になるのかもしれない。
明示的に確率操作するゲーム
確率操作をするのは問題であるが、明示的に確率を操作してプレイできるようにしたゲームにも一定のニーズがあるのかもしれない、となぜか筆者は思ってしまった。ポーカーをやり始めたプレイヤーが強いプレイヤーばかりのゲームで負けてばかりではやる気をなくしてしまうだろう。そのため、プレイヤーの経験(プレイ回数)や強さに応じて、確率操作することで強いプレイヤーと弱いプレイヤーでも互角に戦えるように調整することができるかもしれない。
将棋などのゲームでも、強いプレイヤーと弱いプレイヤーが対戦する場合にハンデを付けることで互角に戦えるようにするということを行うが、ポーカーにおいても(明示的に)確率調整を施すことでそれを実現することができるかもしれない。筆者が開発するゲームではそのうち明示的に確率調整をしてプレイできる設定なども用意してみたいという気がしている(やらないかもしれないけど・・・)。AI相手に戦う場合も、自分が有利な状況で戦ってみたいとか合えて不利な状況でプレイしてみたいという場合もあるかもしれない。こういった確率操作によってプレイの感覚がどの程度変わるかなどを見てみるのも面白いかもしれない。
もう一つのアイデアとして、イカサマをゲームのルールに組み込むこともできるかもしれない。一人のプレイヤーにランダムで確率操作をする権利や他のプレイヤーの手札を見ながらプレイ(イカサマ)する権利を付与して、その権利を行使するかをプレイヤーの判断にゆだねる。行使した場合は有利にプレイすることができる一方で、他のプレイヤーは”お前イカサマしているだろ”と指摘(ダウト)する権利を持たせる。確率操作やイカサマを行使していて、かつ、イカサマを指摘された場合は退場(最下位)になるみたいな仕掛けを入れてゲームをしてみても面白いかもしれない(イカサマをしてなかった場合は疑った方にペナルティを与える)。まあ、イカサマの有利度合いとダウトを外した場合のペナルティのバランス調整が難しいかもしれないけど・・・

