フロップのおける強い役の成立確率

確率論

概要

 前回の投稿で、500bb戦みたいな超ディープスタックのゲームでは、フロップ時点で戦えない手札であればさっさとフォールドした方が良いということを述べた。プリフロップにおけるベット額が小さいため、単純にフォールドすること自体のコストはそれほど高いものではないかもしれない(不運続きだとボディブローみたいに効いてくるけど)。最も怖れなければならないのは、フロップからポットベットを連発されてベット額が急速に吊り上げられるゲームにおいて、中途半端に強い手札(例えば、トップペア・トップキッカーのワンペア)でオールインに近いポットで敗北してしまうことだろう。1回の敗戦で500bbの損失などが生じれば、フロップで即フォールドする場合のコスト100回分ぐらいのチップが飛んでしまうことになる。極端な話を言えば、1回当たりのフロップでフォールドするコストが3bb程度であれば、100回フォールドしても1回オールインポットを取れれば十分にオッズが良い賭けになる。そのため、フロップからベット額が急速に吊り上がるゲームに参戦できる状況というのは相当に限られるだろう。

 こういったゲームで重要になるのはナッツ級の強い役を成立させやすい手札であり、プリフロップで好ましい手札というのが100bb戦とは大きく異なるかもしれない。フロップに4人以上残るようなマルチウェイのゲームではトップペア・トップキッカーのワンペアではハンドとして心もとないだろう。手札がAKoでフロップでトップペア・トップキッカーができたときに、強気のポットベットCBを打ったら3倍リレイズが返ってきて途方に暮れてしまう(どうみてもツーペア以上できている)なんてこともあり得るだろう。

 このように考えると、各手札でフロップにおいて戦えるボードになる確率がどの程度であるかが気になってくる。インプライドオッズが大きいゲームでは、ショーダウン時点の単純な勝利確率で比較するよりもフロップ時点で戦いやすいボードになる確率が高い手札の参入を増やした方が良いだろう。例えば、フロップにおいて手札と共通カードで以下のような状態の場合にナッツ級(フロップから全力ベット可能)の戦える手札と判断すると仮定して、各手札の確率を求めてみよう。

  1. (手札1枚+共通カード1枚が2組の)ツーペア(Double Hit 2P)
  2. トリップス(手札1枚+共通カード2枚のスリーカード)
  3. セット(ポケットペア+共通カード1枚のスリーカード)
  4. ストレート
  5. フラッシュ
  6. フルハウス
  7. フォーカード
  8. ストレートフラッシュ

ワンペアやツーペアであっても実質ワンペア(ボードでワンペアができている)はナッツ級と判断しないことにした。フラッシュドローやストレートドローも弱くはないがリバーまでに引けるかというリスクが伴うため、急速に吊り上がるベットについていくのは難しいだろう。そのため、フロップ時点で既にあるショーダウンバリューだけを判定基準としている。

 これらの役が成立する確率が高い順に手札を並べてよう。もしかしたら、マルチウェイが常態化しているゲームではこちらの方がプレイヤーの実感に近い可能性もあるだろう(例えば、あなたがAKoより54sの方がよほどプレイしやすいと感じるのであれば、その原因を理解できるかもしれない)。

計算結果

考察:モンスターハンドしかプレイしないは可能か?

 計算結果長すぎだろ・・・という話ではあるが、表を見て特徴的な結果を考察していこう。明らかに見て取れる傾向としてポケットペア、特にセットの成立確率が圧倒的に高いということである。500bb戦ではフロップでセットマイン成功、ポットベット連発でオールインまでベットを吊り上げるというのが基本形なのかもしれない。このように考えると、マルチウェイが多いテーブルではポケットペアを優先して3ベットにまわすと良いのかもしれない。

 意外に見えるのは、ポケットペアに続くのがSuited-Connectorであることだろう。この基準で手札の強さを測ろうとすると54sがかなりの上位に入ってくることが分かる。ツーペアやトリップスが成立する確率はポケットペアを除くすべての手札で共通であるため、ストレートやフラッシュを成立させ得やすい手札が上位になり、ポケットペアの次はJTsが入る。AKsはトップペア・トップキッカーのワンペアが強いのであるが、この基準では対象外でありストレートを成立させる確率が低いため、順位が低くなる。

 Suited-Connector以降はSuited-One-Gapper、Suited-Two-Gapper、ただのConnectedと続く。気になるのはマルチウェイが多いテーブルではあまり喜ばれないAKoがどのあたりにいるかだろう。表では122番目であり、AKoはツーペア以上の役がフロップで成立する確率が低い方のハンドになっている。AKoはトップペア・トップキッカーが強い手札であり、ツーペア以上の役で殴り合うゲームには不向きな手札であると言えるだろう。現実には、トップペアトップキッカーはマルチウェイでも弱いハンドであるとは言えないし、この結果だけをみてAKoはフォールドすべきなどという結論にはもちろんならない。手札の総合的な強さに基づいてプリフロップにおけるハンドレンジを考えるべきであるが、これについてはまた別の方法を考えてみよう。

 最後に、プリフロップを手広く参戦する一方で、フロップ以降にモンスターハンド以外をフォールドやパッシブに戦う運用は可能であるかを考えよう。VPIPが40%ぐらいになるようにハンドレンジを絞ると、フロップでツーペア以上の役が出来る確率は大体5.5~6%ぐらいになる。そのため、平均して30ゲームに一回ぐらいモンスターハンドで強気ベットを叩きこむということになるだろう。1回当たりに4bb程度プリフロップでベット額を支払うと仮定すると、モンスターハンド1回当たり大体120bbぐらい稼がなければならないことになる。もちろん、強気にベットした結果、対戦相手が全員フォールドしてしまって大したチップを稼げないということもあれば、2人以上のプレイヤーを巻き込んでオールイン合戦にできる場合もあるだろう。もちろん、モンスターハンドで負ける場合もある。この辺りを考慮して平均120bbが無理と感じるか、イケると感じるかだろう。

 このアプローチは、フロップ版のNITに近いアプローチになるため、モンスターハンドができた時に他のプレイヤーに知られないようにスロープレイを中心に戦うか、他の状況においても積極的にベットを打つゲーム(ワンペアやドロー系でセミブラフを打つなど)を適当に混ぜ込む必要があるだろう。現実には、ワンペア程度の手札でもある程度戦わないと運用が苦しいと感じるかもしれない。

おまけ:モンスターハンドヒット確率によるハンドレンジ

 勝利確率が高い順に指定したVPIPになるようにハンドレンジを計算するツール同様に、フロップでツーペア以上の役が成立する確率が順に参入する場合のハンドレンジを表示するツールを作ったのでリンクを貼っておく。