球面における距離

解析学

概要

 重力や電磁場(クーロンポテンシャル)を考える際に、対象に働く力は距離

\[ \small r = \sqrt{x^2+y^2+z^2} \]

の二乗に反比例して働くものであると考えられている。しかし、この距離は明らかにユークリッド空間上に定義される距離であり、おそらく実際の空間の性質とは異なっているものと推測される。特殊相対性理論に基づいて大域的な空間の性質を推測すると3次元球面であると推測されるため、本来であれば3次元球面上の距離で測られなければならないだろう。また、重力や電磁力をユークリッド空間上で働く引力(斥力)と考えているが、現実には曲がった空間(3次元球面)上に働く力であると考えなければならない。球面における距離とユークリッド空間上の距離がどのように異なるものであるか、その性質について考察してみよう。

1次元球面における距離

 1次元球面(円周)\(\small S^1\)上の2点間の距離を考えよう。

\[ \small \begin{align*} &x_1^2+y_1^2 = r \\ &x_2^2+y_2^2 = r \end{align*} \]

を満たす二点\(\small (x_1,y_1),(x_2,y_2)\)の円周上の距離を求める。ユークリッド空間\(\small R^2\)で考えれば

\[ \small d = \sqrt{(x_1-x_2)^2+(y_1-y_2)^2} \]

であるが、1次元球面では存在しない空間を通過しなければならない距離であるため、そのまま利用することはできない。代わりに、円周上をぐるっと回って到達する距離を計算しなければならないということになる。これは極座標を使って

\[ \small \begin{align*} &x_1 = r \cos \theta_1 \\ &y_1 = r \sin \theta_1 \\ &x_2 = r \cos \theta_2 \\ &y_2 = r \sin \theta_2 \end{align*} \]

と表すと円弧の長さに相当するため

\[ \small d = r |\theta_1-\theta_2| \]

で計算することができる。

\[ \small \cos(\theta_1-\theta_2) = \cos\theta_1\cos\theta_2+\sin\theta_1\sin\theta_1 \]

であるから、上記の距離を座標で表現すると

\[ \small d = r \cos^{-1} \frac{x_1x_2+y_1y_2}{r^2} \]

となる。これが1次元球面における距離の定義ということになるだろう。

 一つの近似として、\(\small x_1,x_2\)が\(\small y_1,y_2\)と比較して無視できるほど小さい場合についてこの距離を計算してみる。

\[ \small d = r\cos^{-1} \frac{x_1x_2+\sqrt{r^2-x_1^2}\sqrt{r^2-x_2^2}}{r^2} \]

と表せるが

\[ \small \sqrt{r^2-x_1^2} \approx r-\frac{x_1^2}{2r} \]

のように近似すると

\[ \small x_1x_2+\sqrt{r^2-x_1^2}\sqrt{r^2-x_2^2} \approx r^2-\frac{1}{2}(x_1-x_2)^2+\frac{x_1^2x_2^2}{4r^2} \]

となる。最後の項を無視すると

\[ \small d \approx r\cos^{-1} \frac{r^2-\frac{1}{2}(x_1-x_2)^2}{r^2} \]

を得る。テーラー展開を利用すると

\[ \small \cos \frac{d}{r} \approx 1-\frac{1}{2}\frac{d^2}{r^2} \approx 1- \frac{1}{2}\frac{(x_1-x_2)^2}{r^2} \]

であるから、

\[ \small d \approx |x_1-x_2| \]

となり、1次元ユークリッド空間\(\small R\)上の距離として近似することができることになる。同様の計算を2次元の場合についても行ってみよう。

2次元球面における距離

 2次元球面上における最短距離(測地線)は2つの点と原点を通る平面上の円弧の長さであり、大円距離(great-circular distance)と言われる。しばしば、リーマン幾何学における練習問題のような位置づけで登場する問題でもある。極座標

\[ \small \begin{align*} &x=r\sin\theta\cos \varphi \\ &y=r\sin\theta\sin \varphi \\ &z = r\cos \theta \end{align*} \]

を用いて、2つの点を\(\small (\theta_1,\varphi_1)\),\(\small (\theta_2,\varphi_2)\)と表す場合に、この2点を結ぶ最短の曲線を求めよう。・・・いや、やっぱりやめて、球面三角法と言われる手法から、これは

\[ \small d = r\cos^{-1} (\sin\theta_1\sin\theta_2\cos(\varphi_1-\varphi_2)+\cos\theta_1\cos\theta_2) \]

と計算できるらしい。1次元同様に、

\[ \small \begin{align*} &x_1^2+y_1^2+z_1^2 = r^2 \\ &x_2^2+y_2^2+z_2^2 = r^2 \end{align*} \]

を満たす二点の距離は

\[ \small \cos(\varphi_1-\varphi_2) = \cos \varphi_1 \cos \varphi_2+\sin \varphi_1\sin \varphi_2 \]

であることに注意すれば

\[ \small d = r \cos^{-1} \frac{x_1x_2+y_1y_2+z_1z_2}{r^2} \]

で計算できることになる。おそらく、これは\(\small n\)次元球面に拡張することができて

\[ \small d_n = r \cos^{-1} \frac{\sum_{k=1}^nx^{(k)}_1x^{(k)}_2}{r^2} \]

で計算できると推測される。

中心力ポテンシャルにおける距離

 実際の空間は3次元であると推測される(まあ、異論はあると思うけど)ため、問題になるのは3次元球面における距離である。特殊相対性理論から

\[ \small x^2+y^2+z^2+s^2=c^2t^2 \]

であるから、3次元球面と言っても、実際には我々が空間として認識していない座標軸\(\small s\approx ct\)にほとんど偏って空間は分布していると推測される。言い換えれば、我々が認識している空間\(\small (x,y,z)\)は座標軸\(\small s\)の値と比較すれば、無視できるほど小さいということになる。

 近似として、\(\small (x_1,y_1,z_1)\), \(\small (x_2,y_2,z_2)\)が\(\small s_1,s_2\)と比較して無視できるほど小さい場合について、3次元球面の距離を計算してみると

\[ \small d = r\cos^{-1} \frac{x_1x_2+y_1y_2+z_1z_2+\sqrt{r^2-x_1^2-y_1^2-z_1^2}\sqrt{r^2-x_2^2-y_2^2-z_2^2}}{r^2} \]

となる。

\[ \small \sqrt{r^2-x_1^2-y_1^2-z_1^2} \approx r-\frac{x_1^2+y_2^2+z_1^2}{2r} \]

のように近似すると

\[ \small \begin{align*} &x_1x_2+y_1y_2+z_1z_2+\sqrt{r^2-x_1^2-y_1^2-z_1^2}\sqrt{r^2-x_2^2-y_2^2-z_2^2} \\ &\quad \approx r^2-\frac{1}{2}\left((x_1-x_2)^2+(y_1-y_2)^2+(z_1-z_2)^2 \right)+\frac{(x_1^2+y_1^2+z_1^2)(x_2^2+y_2^2+z_2^2)}{4r^2} \end{align*} \]

となる。最後の項を無視すると

\[ \small d \approx r\cos^{-1} \frac{r^2-\frac{1}{2}\left((x_1-x_2)^2+(y_1-y_2)^2+(z_1-z_2)^2 \right)}{r^2} \]

を得る。テイラー展開を利用すると

\[ \small \cos \frac{d}{r} \approx 1-\frac{1}{2}\frac{d^2}{r^2} \approx 1- \frac{1}{2}\frac{(x_1-x_2)^2+(y_1-y_2)^2+(z_1-z_2)^2}{r^2} \]

であるから、

\[ \small d \approx \sqrt{(x_1-x_2)^2+(y_1-y_2)^2+(z_1-z_2)^2} \]

となり、3次元ユークリッド空間\(\small R^3\)上の距離として近似することができることになる。

 このように考えると、重力やクーロンポテンシャルで用いられる距離は正確にはユークリッド空間上の距離ではなく、3次元球面における距離の近似である可能性があるということになる。もし、これらの逆二乗則が破れる距離みたいなものが分かれば、空間全体を表す三次元球面の半径を推定することも可能であるのかもしれない。まあ、破られていないとすると、実は半径は無限大であるという可能性もなくはない・・・この場合、空間の性質として3次元球面の性質を有していても、空間全体は別の図形である可能性もあるのかもしれない。ちなみに、あまり詳しくないが、クーロンポテンシャルについては、量子(電子)の単位になっても明確には逆二乗則は破られておらず、それ以上短い距離については実験では確認しようがないらしい。重力は電磁力より弱い力であると思われるため、いずれにしても計測しようもないことなのかもしれない。核力(強い力)あたりが怪しい気もするけれど、現在の筆者には理解の外にある内容である・・・

おまけ:2次元球面における測地線(未完)

 第3節において2次元球面における測地線を求めることを放棄したが、途中まで頑張ったけどあきらめてしまったためである。一応、計算したところまで書き残しておこう。

 2次元球面の極形式において、微小時間\(\small dt\)の間に進む距離は極座標における線素

\[ \small ds^2 = dr^2+r^2d\theta^2+r^2\sin^2\theta d\varphi^2 \]

から

\[ \small \left(\frac{ds}{dt}\right)^2 = \left(\frac{dr}{dt}\right)^2+r^2\left(\frac{d\theta}{dt}\right)^2+r^2\sin^2\theta \left(\frac{d\varphi}{dt}\right)^2 \]

である。球面においては\(\small dr/dt=0\)であるから、曲線の長さは

\[ \small S[\theta,\varphi] = \int_{(\theta_1,\varphi_1)}^{(\theta_2,\varphi_2)} ds = r\int_{(\theta_1,\varphi_1)}^{(\theta_2,\varphi_2)} \sqrt{\left(\frac{d\theta}{dt}\right)^2+\sin^2\theta\left(\frac{d\varphi}{dt}\right)^2}dt \]

で表すことができる。2次元球面上における最短距離を求める問題は、この値を最小化する経路\(\small \theta(t),\varphi(t)\)を求める変分問題として定式化することができる。

\[ \small F(\theta,\varphi,\dot{\theta},\dot{\varphi},t)=\sqrt{\dot{\theta}^2+\sin^2\theta\dot{\varphi}^2} \]

とおいて、オイラー・ラグランジュ方程式から

\[ \small \begin{align*} &\frac{\partial}{\partial \theta} F(\theta,\varphi,\dot{\theta},\dot{\varphi},t) = \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial }{\partial \dot{\theta}} F(\theta,\varphi,\dot{\theta},\dot{\varphi},t)\right) \\ &\frac{\partial}{\partial \varphi} F(\theta,\varphi,\dot{\theta},\dot{\varphi},t) = \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial }{\partial \dot{\varphi}} F(\theta,\varphi,\dot{\theta},\dot{\varphi},t)\right) \end{align*} \]

を解けばよい。計算すると

\[ \small \begin{align*} &\frac{d}{dt}\frac{\dot{\theta}}{\sqrt{\dot{\theta}^2+\sin^2\theta\dot{\varphi}^2}}=\frac{\sin\theta\cos\theta \dot{\varphi}^2}{\sqrt{\dot{\theta}^2+\sin^2\theta\dot{\varphi}^2}} \\ &\frac{d}{dt}\frac{\sin^2\theta \dot{\varphi}}{\sqrt{\dot{\theta}^2+\sin^2\theta\dot{\varphi}^2}}=0 \end{align*} \]

を得る。第2式を積分してから両辺を二乗して、式を整理すると

\[ \small \dot{\varphi} = \frac{C_1\dot\theta}{\sin\theta \sqrt{\sin^2\theta-C_1^2}} \]

を得る。ここで、\(\small C_1\)は積分定数である。この式から

\[ \small \frac{d\varphi}{d\theta} = \frac{\dot{\varphi}}{\dot{\theta}} = \frac{C_1}{\sin\theta \sqrt{\sin^2\theta-C_1^2}} \]

が成り立つ。この積分は計算できるようで

\[ \small \varphi(\theta) = \cos^{-1}\left(\frac{C_1}{\sqrt{1-C_1^2}}\cot\theta\right)+C_2 \]

であるらしい。

\[ \small \begin{align*} &\frac{d\cos^{-1}x}{dx} = -\frac{1}{\sqrt{1-x^2}} \\ &\frac{d\cot x}{dx} = -\frac{1}{\sin^2x} \end{align*} \]

であることに注意して微分してみると

\[ \small \begin{align*} \frac{d\varphi}{d\theta} &= \left(-\frac{1}{\sqrt{1-\frac{C_1^2}{1-C_1^2}\frac{\cos^2 \theta}{\sin^2\theta}}}\right)\left(-\frac{C_1}{\sqrt{1-C_1^2}}\frac{1}{\sin^2\theta} \right) \\ & = \frac{C_1}{\sin\theta \sqrt{\sin^2\theta-C_1^2}} \end{align*} \]

となり確かに一致することが確認できる。したがって、

\[ \small \frac{C_1}{\sqrt{1-C_1^2}}\cot\theta=\cos(\varphi-C_2) = \cos\varphi\cos C_2+\sin\varphi\sin C_2 \]

から式を整理すると

\[ \small \cos\theta = \frac{\cos C_2\sqrt{1-C_1^2}}{C_1} \sin \theta \cos\varphi+\frac{\sin C_2\sqrt{1-C_1^2}}{C_1} \sin \theta \sin\varphi \]

を得る。両辺に\(\small r\)を掛ければ

\[\small z = \frac{\cos C_2\sqrt{1-C_1^2}}{C_1} x+\frac{\sin C_2\sqrt{1-C_1^2}}{C_1} y \]

という原点を通る平面の式に置き換えることができる。すなわち、この平面上の経路が測地線の条件ということになる。原点と\(\small (x_1,y_1,z_1)\),\(\small (x_2,y_2,z_2)\)を通る平面は

\[ \small z = \frac{z_1y_2-z_2y_1}{x_1y_2-x_2y_1}x+\frac{x_1z_2-x_2z_1}{x_1y_2-x_2y_1}y \]

であるから、この式と一致するように積分定数を定めれば良いということになる。最終的に測地線は

\[ \small \begin{align*} &z = \frac{z_1y_2-z_2y_1}{x_1y_2-x_2y_1}x+\frac{x_1z_2-x_2z_1}{x_1y_2-x_2y_1}y \\ &x^2+y^2+z^2=r^2 \end{align*} \]

の共通する座標の曲線として、区間\(\small (x_1,y_1,z_1)\),\(\small (x_2,y_2,z_2)\)の長さを計算すればよいということになる。このあたりで面倒くさくなってあきらめた・・・

 \(\small z_1=z_2=0\)ならば、一元球面と同じであるから

\[ \small d = r\cos^{-1} \frac{x_1x_2+y_1y_2}{r^2} \]

であるが、これは球対称でなければならない(例えば、\(\small x_1=x_2=0\)ならば

\[ \small d = r\cos^{-1} \frac{y_1y_2+z_1z_2}{r^2} \]

でなければならない)から、結局

\[ \small d = r\cos^{-1} \frac{x_1x_2+y_1y_2+z_1z_2}{r^2} \]

であろうという推測は容易にできるが、厳密に計算するのは面倒そうである。

コメント