”複素関数とシュレディンガー方程式(Complex Functions and Schrödinger Equation)”は筆者が書いた電子書籍のタイトルであるが、このタイトルに関する小話を書いてみよう。タイトルだけ見ると、いかにもその学術分野の大御所が書いているかのようなタイトルに見えるだろう。学者ですらないド素人が何偉そうなタイトルつけちゃってくれてるの、と怒られそうなタイトルである。しかし、実を言うと、和書洋書を問わずこのタイトルがついた書籍というのは筆者の本以外に存在していないと推測される(間違っていたらごめんなさい)。既存の本のタイトルについて検索できるだけ検索したが、このタイトルの本を発見できなかったので自分の著書のタイトルとして採用したという経緯がある。要するに、一見するとその分野の大御所が書いた王道の教科書であるように見えながら、実はイロモノ系の本のタイトルになっているということで、筆者好みの皮肉が効いたタイトルになっているということである。
このタイトルであれば内容的に複素関数に関する微積分の理論(正則関数の理論)を説明してから、その応用として複素関数に関する偏微分方程式としてのシュレディンガー方程式の理論を示すという構成になるだろう。しかし、この正則関数の理論とシュレディンガー方程式をつなげて、数学的な理論を提示できる数学者や物理学者はいるだろうか?シュレディンガー方程式における複素関数の微分はただの多変数関数の微分と同じ形式で計算されており、正則関数の条件など完全に無視して計算される。要するに、シュレディンガー方程式は複素関数に関する微積分の理論を必要としていないどころか、複素関数論が微分できないと言ってる複素関数の微分を勝手に定義して計算してなにも困っていないように見えるということである。なぜこのタイトルの本が存在しない可能性が高いかというと、この二つの理論を整合するように数学の理論を説明するということが困難であると思われるからである。
それでは、筆者がこれをどのように議論を組み立てたかということであるが、これは本の内容を見てもらえばよいだろうが、さわりの部分だけ説明しよう。複素関数論というと1変数の複素関数に関する理論を理解して(もしくは、理解できずに諦めて)終わりということがほとんどであろうが、シュレディンガー方程式を複素関数論の枠組みで扱おうとする場合、1変数の複素関数で扱うことができず、2変数の複素関数に拡張して扱う必要があるということであった。\(\small f(z)\)の代わりに、\(\small f(z, \bar{z}) \)のように扱わなければならないということで、このような拡張をすると1変数の複素関数とは異なった性質が出てきて、複素関数の微分の計算も多変数関数の微分と同様に計算できるようになる。このような複素関数の微分は提唱者の名前からWirtinger微分と言われている。この微分の考え方を用いてシュレディンガー方程式を考察していくと、常識とは違った考え方がいろいろ出てくるのであるが・・・あとの内容は本に譲ることにしよう。
ちなみに、多変数関数の複素関数論になると正則関数の取り扱いを極限操作やコーシー-リーマンの関係式から定義しないことが多く、Wirtinger微分を用いて
\[ \small \frac{\partial f(z, \bar{z})}{\partial \bar{z}} \equiv 0\]
と考えてしまうようである。これが正則関数が満たさなければならない条件であり、\(\small \bar{\partial}\)方程式(ディーバー方程式)と言われるらしい。シュレディンガー方程式で扱われる波動関数はこれが0ではない複素関数ということであり、正則関数ではない複素関数の偏微分を定義して計算していくということになる。普通に考えると”そんな微分定義していいのかよ”となるだろうが、こういった常識の崩し方は数学者が苦手にしていることなのではないだろうかという偏見を筆者は勝手に抱いている。こういった意味で、読者の多くは筆者の主張に困惑することになるかもしれない。しかし、そういった困惑させられる部分も含めて楽しんでもらえるとよいのではないかと考えている。
あと、読み直してまだ理解が不十分に思えるのは、固有値がらみの計算だろう。なぜ観測される物理量が行列(演算子)の固有値のみになるのかということがよくわかっていないということである。おそらく、空間が球面座標であることと時間にからむ要素で離散値しか取らないものがあるような気がするのであるが、いまだに仮説の域を出ていないという印象を受ける。これは理解ができるようになったらこのブログに記事を載せようと考えている。
参考文献
[1] 平野要 (2024), 複素関数とシュレディンガー方程式, Amazon Kindle Store(英語訳:Hirano, Kaname (2024), Complex Functions and Schrödinger Equation, Amazon Kindle Store.)
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